カテゴリー、お客様の声
プロローグ
今日から新しい企画を始めたいと思います。
これまで当社で携わらせていただいたお客様の家を訪ね、インタビューを敢行。
彼らの暮らしの楽しみ方、家づくりの考え方を聞かせていただきます。
暮らしの達人たちの言葉には考えさせられたり、納得、共感したりとヒントになることがたくさんちりばめられています。
参考にしていただけたら幸いです。
①一つ一つ丁寧に、楽しく、そして自由な気持ちで/有井邸(リフォーム)
今回、記念すべき第一回のインタビューは多摩市の有井さんのお宅です。
多摩ニュータウンの中心地にある有井邸は、メゾネットタイプの集合住宅(メゾネットとは、家の中に階段、2階を有するタイプで、簡単に言えば、戸建てがつながっているようなイメージ)。
周りは緑が豊富で、いくつかの同様な集合住宅が、ゆとりを保ちながら配置されています。
居住者以外は出入りしにくく、集合住宅とは思えない、閑静なたたずまいで、特別感がある住区になっています。
どんな家ですか?
そんな中にある有井邸は、築40年のコンクリート造り(RC造)。
両隣りに、それぞれ壁一枚でつながった世帯が存在します。
家の中に入ってしまうと戸建て住宅と錯覚してしまうのですが、共同住宅なんです。
ベースはコンクリートですが、両隣りがあるので暖かいという共同住宅のメリットを享受している家です。
一方で、コンクリートなのでリフォームはなかなか難しい面が多いと言えます。
基本的に間取りを変えることができません。
また、共同住宅なので、管理組合の規約など、ある程度の制約もあります。
そのせいで、これまでにいくつかのリフォーム工事を断念した経緯があります。
どんなご家族か教えてください
チャイムを鳴らすといつもの明るい声で返事があります。
「は~い、いらっしゃあい!」
いつもの陽気な奥様の声は、いつだってウェルカムなスタンスなのです。
その声を聞いただけで楽しくなってくるので不思議です。
いつものLDKに通してもらうと、ダイニングテーブルに招いていただき、椅子に座ります。
このダイニングテーブルも部屋の大きさからするとちょっと大きめ。
家族が多いので、集まりやすいようにするためなのだとか。
まずはご主人がひきたてのコーヒーを入れてくれます。
自分で関わっておきながらなんですが、この空間が居心地がいいんです。
おいしいコーヒーを飲みながら、おもわず深呼吸。
造作物というよりは、この有井さん夫婦が作り出す雰囲気、住まい方が、この居心地の良い空間をつくっているのだと思います。
有井さんご夫婦は、4人のお子さんを育て上げ、皆さんそれぞれ独立。
ご夫婦もリタイアされ、二人だけの悠々自適な生活が軌道に乗ってきたところ。
奥様はスケールの大きな鹿児島人です。
「歴史が好きで、読書で学び、旅行で確認する」
手芸も得意で、使わなくなった着物の生地を使ってさまざまなものを作り上げるという「つくる」ことにも造詣が深い方でいらっしゃいます。
鹿児島のご実家のお世話も怠らず、そして、子供たちの小さいころの美術の作品をなかなか捨てられない、愛の深い方なんです。
まさに、有井家の太陽のような存在です。
ご主人はゴルフやテニスを日常的にこなされる元気な方。
ドライブも趣味で、トヨタ86というスポーツカーを乗りこなしています。
アクティブな反面、私にはいつもニコニコ笑顔を見せながら穏やかに対応してくれます。
家族を俯瞰して見ながら、包み込むように見守っている感じが、私は同じ男としてかっこいいなぁといつも思ってしまう方なのです。
そんな彼らの暮らしのお手伝いをするのは「本当にありがたき幸せ」なのです。
私との出会い、工事のきっかけは何でしたか?
「会社の大工さんとしてきたのが最初だったよね?」
そうなんです。
もう10年以上前、当時は下請けの大工として有井邸にきたのでした。
その時は、ユニットバスの交換のための下地づくりからでした。
「そして、2階の梁だよね、あれから始まった」
「子供たちが独立し、部屋が空いた、荷物の整理と共にこれまで頭にとどめておいたイメージをこの部屋に反映させたいと思って」
私「そこで、イタリア旅行の思い出、滞在したホテルの部屋のイメージを出したかったんですよね?」
「そう、そう!」
2階の2部屋を、屋根勾配なりの勾配天井に変えたのです。
さらに、その天井に沿って登り梁を化粧で入れました。
これを私が、ただ付け梁をするだけでは面白くないと思い、手斧でのなぐり仕上げを提案したのです。
「古材の雰囲気が出て、やって良かった」
と満足していただけました。
荷物整理のためのロフトも作ったのですが、
「はしごは荷物を持って昇り降りができないので避けたい」
とのご希望。そこで階段をつくることになったのですが、場所がとれない。
そこに奥様が斬新なアイデアを。
「壁際につけるカウンターテーブルの上に階段を載せてしまう」
写真で確認してもらうと助かりますが、テーブルの際に踏み台を置くことで問題を解消。
私には到底思い浮かばないアイデア。
確かに一挙両得です。
こうなると、階段を魅せるものにしたくなります。そこで手刻みでストリップ階段を製作。
側板をテーパーに加工したりと細かい細工を施しました。
「話しながら、一緒に作り上げていく感じが良かったね」
今考えると、こうした裁量を私に与えてくれていた元請さんもありがたかったのですが、
諸事情があり、間もなくこの元請さんは会社をたたむことに。
私がひとりで会社を始めるきっかけにもなったのですが、
「さて、仕事どうするか?」
となった時、連絡してきてくれたのが有井さんでした。
「やりたいことができたから来てくれる?」
タイミングも絶妙でしたが、私ありきで連絡してくれたのが本当に有り難いこと。
足を向けて寝ることができません。
やりたかったことはなんですか?
そもそも、お子さんたちの独立、夫婦二人でのリタイア生活、建物の老朽化に伴うメンテナンスなどがリフォームのきっかけ、スタートだったと思います。
私「しかし、いい意味で、それだけではなくなってきましたよね?」
「夫婦でお互いに大事にしてるものがあって、それを尊重しつつ、気持ちよく暮らしていきたいという思いがあるからね」
「既製品でもいいんだけど、サイズ感や質感が微妙だから」
二人でいろいろ妄想を膨らませてそれぞれの部屋のイメージをつくり、形がなんとなくできると、私に連絡が来ます。
私は、そのイメージを聞き、最大限の具現化を試みます。
2階から始まったリフォームは1階のメインのお部屋、LDKに入ります。
1階 LDK
私「天井のイメージが、やはりイタリア旅行の思い出、古民家のホテルの部屋のイメージを再現したかったんですよね?」
「もう少しごっついイメージだったんだけど、コンクリートに木を固定する限界、また部屋の大きさに対してのバランスからみても抑え目にした方がいいという河辺さんのアドバイスに沿いましたが、結果的にはそれで正解でした」
付け梁は、2階とはちょっと趣向を変えてハマグリ手斧を使用。
魚のうろこのような仕上がりです。
私「古民家感をより引き出すために古材丸太の半割を壁に取り付けました。どうでしたか?」
「コンクリートの壁にあんなのが取り付くなんてスゴイ!と思いました」
「古材丸太の存在感はそのままに、半割なのでそこまで圧迫感を感じることもなく良かったです」
私としてもこれは新たなチャレンジの内容で緊張と興奮の中、しっかり楽しませてもらいました。
私「お二人の大好きなチークの床は、思い切って採用されて良かったですね」
「そうですね。周りの家具や椅子などもチークなので、しっくり合って良かったです」
「キッチンの床をテラコッタ調のタイルにしたのも正解。床暖も合わせて入れたので快適」
人がよく集まる有井邸のメインのお部屋に貢献できたかと思います。
古民家調で、チークの床。
重厚感があり、落ち着ける空間に仕上がりました。
いつかこの天井壁に珪藻土を、じぶんたちで塗ってみたいという、願望もあるそうです。
1階 トイレ交換
意匠的なリフォームばかりかと思われるかもしれませんが、機能的なところもしっかりアップグレードさせています。
トイレの老朽化に際し交換となったのですが、一つの課題を課されました。
それは「便器の後ろにある配管や電気の線をなんとかして隠せないかしら?掃除がしにくいんだよね~」
ということでした。
既製品には壁をつくって配管等を極力見せないようにする製品があります。
今回はそのアイデアを拝借して、木でつくってしまいました。
既製品にはない温かみ、かわいらしさが出たと思います。
有井さんにも大きくグーサイン!を出していただきました。
エアコン室外機カバー
庭いじり、ガーデニングも好きな有井さん。
ただ、その中で「エアコンの室外機の無味無臭な味気無さが気に入らない」ということで室外機を木の板で覆ってしまいました。
それだけでは終わりません。
棚も設置してガーデニングの中に組み込んでしまいます。
できあがっての感想はどうでしたか?
自分でイメージして設計に参加して、私と一緒につくりあげている実感があるのだと思います。
なので、納得されて完成を迎えていらっしゃる印象があります。
作り出す前にしっかり吟味してから始めるので無駄がない。
私も急所では確認しながら進めていくのでイメージからの誤差が少ないんだと思います。
そして、気持ちはもはや、次回へ飛んでるようで。
「この次はこんなこと考えてるんだよね」とはじまります。
私も、そのお話が面白いので食い入って聞いてしまいます。
毎回、私に課される課題のハードルは高いのですが、それを考えるのが楽しいのです。
なぜ、8回もの工事を私に指名してくれたのですか?
有井さんのリフォームに対する考え方は、特別かもしれません。
これまで、有井邸の工事は、振り返って指折り数えてみると、なんと!8回にもなります(施工事例も全てではありません)。
そのあたりを聞いてみると、「一つ一つ片付けていかないと前に進めない。そして、一つ片付くことで新しい興味が湧いてくる」なんだそうです。
確かにいっぺんに工事を終わらせることができたら、無駄な経費がかからないかもしれません。
しかし、家を小分けにして、一つ一つを丁寧に吟味して、より良い答えを見出して工事するのは、満足感に反映するのではないかと思うのです。
小分けにした一つ一つなので集中力が保てますし、一つ一つを大事に考える。
すごく丁寧な考え方なのではないかと思うのです。
また、人間の想像力というのはあてにならないこともままあります。
こんな風になる予定だったのに、実際に使ってみたら予想外に使いにくかった、なんて話はよくあることですよね。
そう考えると、試しながら、少しずつ前に進めていくことは、ある意味、合理的なやりかたなのかもしれません。
有井さんとの経験を通して、私は他のお客様にもよくお話するようになりました。
「やりすぎないようにしましょう。大きく作って暮らしながら必要に応じて加えていくのがいいですよ」と。
私が学んだこと
実は、現在も有井さんからの新たな課題と取り組んでいる日々です。
私は10年もの間、さまざまな形で有井さんに助けてもらっていると思います。
本当に感謝しかありません。
そして、たくさん学ばせてもらってます。
理想をあきらめない
常に興味、好奇心を絶やさない
自由である~誰にも惑わされず、自立して行動する
こんな点を尊敬しています。
「暮らしを楽しんで生きる」とは、こういった姿勢が大切なのではないかと思います。
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